ゴールデンウィーク前日~雪也 月也 薫 2

     昼休みが終わり、五時限目の授業で国語の小テストを受ける雪也達。

    国語の苦手な月也は、早くも苦戦していた。

   “この時の作者の気持ちは?” という問題に対し、月也の答えはというと、

 (知るかそんなの!『締め切りマジでヤベェ!』じゃねぇのか⁉)

    というものだった。そんな訳無い、と分かっているのだが。

    多分これは、薫の影響が大きいのだろう。コミケが近づくと必ずと言って

    いい程、『原稿ガー』『締め切りガー』『もうダメ!無理!落ちる!』と

    叫んでいる姿を見て来たせいだ。

    過去、漫研の部室で何度か見聞きした部員達の台詞と光景…。


 『先輩!もう無理です』『バカヤロウ!諦めるな!時間はまだある!!!』

 『私は此処でタヒ…』『駄目だ!お前、…逃げるな!…生きていく方が闘い

    だ!!!!!!!』

 『うう、ここまでか…』『センパ…、いや、先生!諦めないでください!多

    勢のファンの方達が先生の作品を楽しみにしています。頑張って下さい。

    アタシもその一人です!!!』

 『僕の心臓まだ動いてる!!!!!!!!!』

 『BL燃料の補給部隊は⁉』『ダメです!通信出来ません!!』

 『壁だ!!!俺達は壁になるんだ!!!!!!!!!!』

 『BL王に、俺はなる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 『神は死んだ……』

    机の上に突っ伏している者…は、まだ良い。机にガンガン頭を打ち付け、

    何か叫んでる者。床に座って坐禅する者。口から魂が抜けている者。

    五体倒置している者。クロール泳ぎの真似をする者。窓から脱走しようと

    する者。其れを阻止する者。机の下に潜り込み、膝を抱えて何やら呟いて

    いる者。笑顔のまま、カッターの歯を出し入れする者、etc…。

    死屍累々…、阿鼻叫喚の地獄絵図。

 ((何でだよ!お前ら、まだ中学生だろ!!!!!))

    自分達の部活を終え、薫を迎えに行き、雪也と一緒にドン引いた。いや、

    引いたというより、正直、怖い!怖過ぎた!!

    雪也と月也、思わず身を寄せ合わせてしまった。その姿はまるで、心細そ

    うにしている仔犬の兄弟のようだ。

    だが、真の恐怖は其の先にあった。いつまでも突っ立っている訳にはいか

    ない。さっさと薫を回収して帰るに限る。

    そう、まさに二人の思いは、

 ((お家に帰りたい))

    だった。

    意を決して、声を掛ける。

 「「………あの」」 

    すると、今さっきまでの喧騒から一転、ピタリと声が止み動きも止まり、

    一斉に雪也と月也へと視線が向けられる。が、明らかに其の視線は、

 『下らない用事だったら殺す!!!!!』

    と言うものだった。超~怖い!早く薫を回収して以下同文。

 「何か御用かしら⁉ 見ての通り立て込んでおりますが…」

    薫の先輩だろうか⁉ たじろぐ雪也達に、笑顔で話しかけてきてくれた人が

    いた。 綺麗で優しそうな雰囲気に、ホッとした次の瞬間、それは間違いだ

    と分かった。笑顔が怖い!何故かその人の背後に、大きな般若の面が見え

    る気がする。関わってはいけない人だ、コレ!早く薫を以下同文。

    美人先輩の迫力に、圧倒された雪也達は抱き合う様にして、怯えながらだ

    が、伝える。

 「すみません。俺達、薫を迎えに…来た…ん…です…け…ど……」

 「入って!」

    しかし、言い終わる前に部室に入る様促されるが、躊躇う二人。

    すると美人先輩は、素早く二人の背後に回り込み、がっしりと雪也の左肩

    と月也の右肩を掴んで、強引に連れ込もうして来た。

    吃驚した月也が叫ぶ。

 「ちょっ…、先輩。何するんですか? 離して下さい!」

    ニヤリと黒い笑みを浮かべる美人先輩。

 「何するって、ナニするに決まってるじゃない♡ ここまで来て往生際の悪

    い、逃がしゃしないよ♡」

    もはや台詞が、カタギの人じゃない。逃げようと、二人で必死にジタバタ

    していると、部室からひょっこり現れる薫。

 「雪ちゃん、月也。何してるの⁉」

 「「薫!迎えに来たんだ。帰るぞ!あと、助けて下さい」」

    学生服の背後襟を掴まれ、捕獲された二人は薫に助けを求める。

 「あー、部長。この二人顔はいいですけど、中身は小学男子ですよ⁉」

 「ショタも良いわよね♡ この二人色々美味しそう♡ 燃料にもなるわね♡」

 「部長!流石です♡ あ、お先に帰らせて貰ってもいいですか⁉」

 「良いわよ。また、明日ね~♡」

 「「………」」


    思い出して溜息をつく月也。この頃はまだ、薫の事を女の子として意識し

    ていなかった。意識してから、雪也に聞いた事がある。薫をどう思ってい

    るのか。もしかしたら、恋敵になるかもしれないと、ちょっとドキドキし

    た。が、雪也の答えは、

 「妹⁉ みたいな⁉ 可愛いとは思う。多分、アレだ!身内的に言う『馬鹿な

    娘ほど可愛い』ってヤツだ!」 

    だった。実際、薫の成績はよろしくない。

 「雪……、お前、色々酷いな。あと、『娘』じゃなくて『子』な!漢字が

    迷子になってるぞ」

    そんな会話をした記憶がある。その時だ。

 「奏 月也!そんなに穴が開くほど葵を見つめても、答えは教えて貰えない

    と思うな~」

    国語の先生に言われ、我に帰る月也。どうやらいつの間にか、左斜め前の

    席に座る雪也を見ていたらしい。

    ドッと笑いが起こる教室。呆れ顔の雪也。そして、ちらりと視線だけ薫に

    向けると、やはりニヤニヤしている。

    多分、いや確実に、薫にネタを提供してしまったようだ。