雪也の攻防戦

     相馬のマンションに移り、数日が過ぎた。

    その間もいろんな出来事があった。例えば、体力テストの日の朝、朝食の

    席で雪也がいつもの制服ではなく、ジャージ姿に気付いた相馬は理由を聞

    いてきたので話すと、会社を休んで学校に行くと言い出した。

 「僕がいなくても、会社なんて勝手に回るよ。困る事もそんなにないと思う

    よ⁉ それよりも、雪ちゃんの応援に行きたい♡ いいよね♡」

 「支社長なんですよね⁉ 相馬さんがいないと困るし、回らないんじゃないで

    すか⁉ あと、運動会じゃないので、応援はいりません。駄目です」

 「え~、平気だよ。それより、テスト中もずっとジャージ⁉」

 「平気じゃないですよ。体操服です」

 「………と言う事は、短パン⁉」

 「そうですけど⁉」

 「行く!絶対行くから!!」

 「ダメだって言ってんだろ!…あっ、もう俺行きますから!相馬さん達も食

    器、食洗機の中に入れておいてください。お願いします」

    雪也はカバンを持って、足速に玄関へ向かった。

 「雪ちゃん、待って…」

    靴を履いていると、相馬が追いかけて来た。まるで親の後追いをする子供

    のようだ。

    幼児か、アンタは!雪也は思わず心の中で突っ込んでしまった。

    すると突然、相馬が倒れた。どうやら、涼介が背後から飛び蹴りを入れた

    らしい。倒れた相馬の背中を踏みつけ、涼介が叫ぶ。

 「行け!雪也君!!」

 「涼介さん、…ありがとうございます!行ってきます!」

    マンションの廊下を小走りで駆け抜け、エレベーターに乗り込むと、雪也

    はホッと一息ついた。

    
    体力テスト午前の部が終わって、今は昼休み。雪也は月也と薫に今朝の出

    来事を話した。案の定、月也は大丈夫か、と心配してくれたが、薫は興奮

    した様子で、雪ちゃん家の部屋の壁になりたい、などと言い出した。

    要は、覗き見したい♡ という事らしい。これだから腐女子は!と怒りを隠

    せない雪也だった。

    体力テストも終わり、部活動もきっちりやると、若いとはいえ、体力を

    消耗する。特に、入部したばかりの一年生は、立っているのも辛そうにし

    ていた。部長である雪也は、部員達を気遣いながら頭の中で、晩飯の献立

    を検索していた。


 「「ただいま~」」

    夜の七時半、相馬と涼介が帰ってきた。

    今日は随分早いな、と思いながら玄関に向かう雪也。

 「お帰りなさい。今日は簡単にハヤシライスしたんですけど、…大丈夫です

    か⁉ 随分疲れているようですけど」

    帰宅時間が早い割に、疲弊しきっている相馬と涼介。

 「あ、雪ちゃん♡ うん、大丈夫…って、雪ちゃんの生足!!!!!」

 「「えっ?」」

    雪也は自分の足を、涼介は雪也の下半身に視線を移す。

    そうだった。疲れた雪也は、上だけ着替えて下は体操服の短パンのままで

    いたのを思い出した。

    母親似の雪也の肌は、クラスの女子からも羨ましがられる程白い。

    雪也自身にとっては、コンプレックスでしかないのだが。

 「あ~、眼福~♡ 触っていい⁉ 触りたい♡」

 「ダメです。イヤです」

 「え~、じゃあ、撫で回すので我慢する♡」

 「我慢の意味が迷子になっていますよ」

 「もう、雪ちゃん我儘なんだから♡ じゃあ、舐め回すので手を打とう♡」

 (変態だあああああああああああああああああああああああああああああ)

 「俺の体は全体的にお触り禁止です。ご了承下さい!!!!!」

    そう叫ぶと、雪也は自室へと駆け込み、三時間程引きこもった。

    お陰で、三人が晩飯にありつけたのは、夜の十時半過ぎになってしまった

    のだった。