雪也と相馬そして涼介~7

    とりあえず、身の危険は無くなった雪也だが、相馬との攻防戦で、激しく

    気力、体力共に消耗させられていた。

 (合気道の試合でも、昇級試験でも、こんなに疲れること無かったのに…。

    何だろう、このもの凄い精神的ダメージは)

    はぁ~、と大きな溜息が漏れる雪也。

 「雪也君、疲れているところ悪いけど、くれぐれも油断は禁物だから!コイ

    ツと一緒に住むって事は、そう言う事だから。相馬の半径2メートル以内

    には近づかない事、特に間合いには絶対入らない事! いいね⁉ まぁ、間

    にテーブルとかあれば、襲い掛かられてもブロックできるし、最悪、逃げ

    出す時間稼ぎには使えるから、コレが一番お薦めかな!」

 「御助言を頂き、有難うございます。…もし、万が一捕まった場合はどうす

    れば⁉」

 「俺が居れば助けてあげるよ!」

 「居なかったら?」

    雪也の問いに視線を逸らし、答える涼介。

 「………………………………………………諦めて」

 「諦めて⁉ いや、諦めたくないんですけど。諦めたら俺の人生終わってしま

    うんですけど」

 「……そこは、まぁ、新しい人生の扉が開くと思って」

 「開けたくないし。そもそも、そんな扉要りません!」

    他人事だと思って、対応が雑過ぎる。

 「ま、その事はひとまず置いて、やる事やっておかないと、今日中に終わら

    ないどころか、明日の夜になっても終わらないよ。疲れた状態のまま月曜

    日迎えることになるけど、いいの⁉」

 「それは嫌です」

 「僕も嫌」

    涼介の問いに、雪也と相馬が即答する。見ると、相馬はかなり疲れた表情

    をしている。さっきまであんなに元気だったのに、というか浮かれていた

    のに。

    しかし、そのお陰でその後は脱線することもなく、夜の九時前には無事、

    引越しが完了した。勿論、雪也の部屋の鍵も新しく六つ取り付けられ、合

    計七つになったドア。部屋の内側から見るとかなり異様に写った。

    だが、鍵を付けてくれた業者の人は、別に驚くでもなく雪也と相馬を交互

    に見ると、納得した、というように頷き、黙々と作業を進めた。

    後から知った事だが、業者の人は相馬と涼介の元同級生らしい。どおりで

    あの異様な数の鍵の取り付けにも冷静な訳だ。と納得した雪也だった。