雪也と相馬そして涼介~6

     話を逸らして、誤魔化す気なのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

    逃げねば!… だが、どうやって? あっさりと捕獲された雪也は、自分の

    迂闊さを呪った。

 「あの、相馬さん」

 「何? 雪ちゃん♡」

 「俺にはまだ早いと思います」

 「そんな事ないよ。僕の初体験も十五歳の時だったから!」

 「早いですね! 俺は大人の階段、まだ登りたくないです。てか、見えても

    ないです! 無理です!」

 「大丈夫 大丈夫♡ 一緒にベッドに入っちゃえば、僕が見せてあげるし、

    あっという間に登らせてもあげる♡ 無理じゃないよ♡」

 「登りたくないつってんでしょうが!」

    グイグイ来る相馬の胸に両手をあて、距離を取ろうと必死の抵抗を試みる

    が、いかんせん相手の方が、体格も腕力も雪也より数段上だ。

    イヤイヤ、と頭を横に振ってなおも抵抗していると、突然雪也の身体が宙

    に浮く。どうやら相馬に持ち上げられてしまったようだ。

 「じゃあ、行こうか♡」

 「何処へ?」

 「僕の寝室♡」

    そう言うと、相馬はそのまま歩き出した。

 (ウソだろ⁉ 初めての相手が男とか、嫌過ぎるし…何より怖い!)

 「ちょっ…、嫌だ!行かない!!行きたくない!!!離せ!降ろせえぇ!」

    キッチンのカウンターの端に辛うじて掴まり、敬語もすっ飛ばして叫ぶ。

    自分は住込みのバイトとして、給食費を稼ぐ為に此処に来た筈なのに、何

    故こんな事になっているのか、と軽くパニックになる雪也。

    そんな雪也に、相馬は一言。

 「アハハ、雪ちゃん人馴れしてない仔猫みたいで可愛いなぁ♡ 怖くないよ、

    可愛がってあげるからね♡」

    その言葉に、更に恐怖心を煽られた雪也は、陸に上げられた魚のように、

    激しく抵抗した。

    そんな二人の様子を見ていた涼介は、溜息をつきながら近づき、いつの間

    にか手にしていたハリセンで相馬の頭を叩くと、スパーン、と心地いい音

    が響いた。

 「は~い、そこまで! 相馬、いい加減にしろ。雪也君、大丈夫⁉」

 「…… はい、なんとか。出来れば、もう少し早く助けて欲しかったです」

 「雪也君、馬鹿なの⁉」

 「馬鹿、… 初めて言われました」

    常に試験では、学年で五番以内に入る雪也は地味に凹んだ。だが涼介は 

    容赦なかった。

 「俺、ちゃんと言ったよね⁉」

 「…… はい、これから気をつけます。助けてくれて、有難うございました」

    正直まだ聞きたい気持ちはあったが、下手に近づくことは身の危険(主に

    貞操)、と感じた雪也だった。