雪也と相馬そして涼介~5

     あからさまに離れていく雪也に、相馬はショックを隠し切れず訴えた。

 「雪ちゃん、君、僕の事  “男なら見境なく襲う奴” だと思っているでしょ?

    それ誤解だから」

 「あっ、そうですよね。相馬さんなら相手に困る事なんて無いですよね。何

    か…すみません、不快な思いをさせて。俺、自意識過剰ですね」

    恥ずかしいです、と照れながら謝った。

    しかし、それを見ていた涼介は右手を振りながら言った。

 「いやいやいやいや、雪也君、君、確実に相馬に狙われているから」

 「えっ? でも……」

 「だって俺、相馬から “初恋の相手” は雪也君だって聞いてるけど⁉」

 「はっ?」

    三度目の衝撃告白。

 「涼介、ちょっと黙って」

 「え、あの… “初恋の相手” って、俺、前にも相馬さんに会った事あるんで

    すか?」

    言いながら、雪也は昨夜の事を思い出していた。『初めまして』の言葉

    に、相馬が少し寂しそうだったことを。 だが、雪也には覚えがない。

 「覚えて無くても仕方ないよ。雪ちゃんがまだ小さい頃だったからね」

    だとしても腑に落ちない。だって自分は愛人の子だ。いくら幼児期といっ

    ても、普通に正妻の子に会わせるなんて事あり得るだろうか⁉

    藤堂は母親の雪子の事を軽蔑していたようだが、自分の知る母は、他人を

    貶めたり、苦痛を与えて喜ぶ女ではなかった。

    相馬の趣味は置いといて、何よりも、愛人の子に恋するなんて事あり得る

    だろうか⁉

 「小さいって、俺が何歳の時ですか⁉ 場所は何処ですか⁉ どういった事情

    で会う事になったんですか⁉」

 「ちょ、雪ちゃん。どうしたの⁉ いきなり」

    雪也に詰め寄られ、矢継ぎ早に質問された相馬は、少し驚きながら聞き返

    した。

 「…… 別に、ただ知りたいだけです」

 「それは、君が僕に興味があるってこと⁉ 自惚れていいのかな」

    ん? あれ? 話を逸らされてる⁉ てか、いつの間にか手を握られている。

    他の思いに気をとられ、近づき過ぎた。

 「いえ、あの、そうではなく…」

 「そうじゃないって…、じゃあどういうこと⁉ 僕としては、君がもう少し大

    きくなるまで待つつもりだったけど。そうだよね、気になるお年頃だもん

    ね♡」

    そう言うと、相馬は雪也の腰に手をかけて、グイッと自分に引き寄せた。

 「なっ!」

 「大丈夫だよ、痛くないように優しくするから♡ 君は何もしなくていいか

    らね♡ 全部僕に任せて♡」

    話を誤魔化して、無理矢理車線変更させる気かと思ったら、まさかの進路

    変更だった。