雪也と相馬そして涼介~4

     涼介の話と蒼子の言葉に、雪也の脳内は絶賛修羅場中。

    しかし悪い事ばかりでは無かった。

    例えば報酬金額、月五千円でいいと言う雪也に、相馬と涼介は、それでは

    少なすぎると、家事全般に対する妥当な金額を提示してきた。

    提示された金額は、子供の雪也にしたらかなりの額だったので、渋ってい  

    ると涼介は言った。

 「別に特別待遇な訳じゃない。正当な金額なんだから、受け取っておくと良

    い。さっきも言ったけど、引き出せる処から引き出せるだけ引き出してお

    くものだよ。あって困るモノでもないしね」

    余りにもあっけらかんと言われると、雪也もすんなりと受け入れられた。

    雪也自身も、さっきまでの自分と違う自分に正直驚いていた。

    それからは色々なことがスムーズに進んだ。とは言うものの、雪也が戸惑

    うことも結構あった。

    先ずはキッチン、備え付け食洗機や最新型のオーブンレンジ、コーヒー

    メーカー エスプレッソマシンと無駄にお高い物はあるのに、何故かまな

    板や包丁、炊飯器、鍋、フライパン等の調理器具が全く見当たらない。

    おまけにこれまた、高級そうなコーヒーカップやワイングラス、お洒落だ

    が使われて無さそうな皿が数枚とカトラリーはあるものの、お茶碗や箸、

    お碗、コップといった日常的に使う食器が一つもない。

    トドメに、冷蔵庫の中は見事に空っぽ…ではなく、お酒で埋め尽くされて

    いた。

    軽く目眩がしたが、フルフルと首を振り気を取り直す雪也。

 「必要な物があったら言って⁉ すぐ揃えさせるから」

    お酒だらけの冷蔵庫を見られたのが恥ずかしかったのか、雪也の気をそら

    すかの様に相馬が言った。それに対し、

 「…あの、相馬さん。相馬さんが嫌で無ければ、トランクルームに置いてあ

    る物を使ってもいいですか⁉ 勿論、相馬さんが使う食器は、新しい物を用

    意しますから」

    ダメですか⁉と懇願する様な表情で雪也は相馬を見上げた。

    相馬の身長187センチ、雪也の唯いまの身長165センチと、20センチ以上

    の差は大きい。

    顔の前で手を組み合わせて、自分を見つめてくる雪也に勝てる訳もなく、

 「本当にいいの? 雪ちゃんさえ良ければ、僕は別に構わないけど…。出来

    れば僕も食器使わせて貰ってもいいかな?」

    と答えると、はい、使って下さい。と返事が返ってきた。

    しかしその直後、ハッとした雪也は、スススと安全距離を取る様に、相馬

    から離れた。危険人物相手に、近づき過ぎたと思ったらしい。

    雪也の行動に少なからず、ショックを受けた相馬は、そのまま動けずにい

    た。

    その様子を見ていた涼介は、雪也に向かって、無言で右手の親指を立てて

    見せた。