雪也と相馬~5

     取りあえずの片付けが終わり、綺麗になったリビングで、雪也と相馬の

    話合いが始まる。

 「給食費って、今ひと月いくら?」

 「五千円です」

    雪也の答えに相馬は、うなづき、何か考えている様だった。が、突然雪也

    ににっこりと笑いかけながら言った。

 「ところで雪ちゃん、僕のことは『相馬お兄様♡』とか『相兄さん♡』とか

 『相馬お兄ちゃん、お着替え手伝って⁉♡』とかでも好きに呼んでくれてイ

    イよ♡ 因みに僕のオススメは、三番目!!!!!」

 (何その三択、何で最後に全て♡がついてるの? あと、相馬さんのおすすめ

    が一番謎なんですけど!)

 「………………………………………………それじゃあ、お言葉に甘えて」

 「うん うん♡」

 「相馬さん、で。あと、着替えは俺一人で大丈夫です!」 

 「えーーーーーーーーーーーーーっ、そんな………遠慮しないで」

 「してません」

 「此処には、僕達しかいないんだから、気を使わなくていいよ」

 「使ってません」

 「うぅっ…」

    相馬の落ち込み様に、なんか俺が感じ悪い奴みたいになってるんだけど、

    と思わずにはいられない雪也だった。

 「あっ、そうだ。雪ちゃん、ちょっとこっち来て」

 「? はい」

    今さっきまで落ち込んでいた相馬が、思い出した様に言って、ソファーか

    ら立ち上がり歩き出す。

    立ち直り早いな、などと思いながら相馬の後を追った。

    すると、相馬はバスルームの向かいにある部屋のドアノブを回し、ドアを

    開けながら、雪也を促す。

 「入って」

    部屋に入ると、八畳程の広さにベッドや机、飾り棚等が目に入った。

 「…あの?」

 「どお? この部屋」

 「あ、えっと。いい部屋だと思います」

    感想を聞かれ、雪也は正直に答えた。

 「じゃあ決まり!ここ雪ちゃんの部屋ね」

 「えっ!」

    自分の部屋が用意されている事に驚く雪也。だが、これ以上借りを作る訳

    にはいかない。リビングに戻ろうとする相馬の腕を掴んだ。

 「待って下さい。俺、別に部屋無くてもいいです。アパートでもありません

    でしたし…」

 「え?……でも雪ちゃん。今年受験生でしょ⁉ 必要だよ」

 「いえ!本当に大丈夫ですから!」

 「雪也‼」

    意固地になっている雪也に対し、相馬は少し大きな声で制して、雪也の両

    手首を掴み、バンッと体ごと壁に押し付けた。

    思いもよらない出来事に驚いたが、武術が身に付いている雪也は、直ぐに

    反撃体勢に入ろうとした。が、動けない。

    足技も使えない様に押さえ込まれていた。

 (いつの間に⁉……この人、何か武術をやってる!)

    身動きの取れない雪也は、険しい顔で相馬を睨んだ。だが、それに対して

    相馬は真剣な表情で話してきた。

 「雪也、君はもっと賢く生きるべきだ。君を愛し、守ってくれた人はもうい

    ない。気に入らない相手に、借りを作りたくない。というのも分かる。

    なら、今後は大人達を利用する事を考えなさい。媚びを売れということ

    ではないよ。使えるモノは使えという事、要らなくなったら棄てればいい

    それだけだよ」

    それでも雪也は何も言わずに、相馬を睨み続けている。

    これに対し、相馬は表情を和らげ続ける。

 「雪…、僕は君の敵ではないよ。僕は 君が…」

    相馬の顔が、近付いてくる。その時だ。玄関のドアを開け、男が一人入っ

    来た。

 「相馬、今日これから……って、何やってんだ!!!オマエーーーーーー」

    そう叫びながら、一足飛び来たかと思うと、相馬の顔面めがけて蹴りが

    繰り出された。