母の死~3

     四月上旬、雪也は藤堂家にいた。

 『また来る』その言葉通り、三日後に藤堂は、雪也の前に現れた。

    ただ、先日とは大分様子が違っていた。 

    藤堂が引き連れて来たのは、役所や学校関係者、母の会社の人達、専門

    業者だった。

    何故彼等なのかというと、雪也を説得する為。と言うよりも、雪也の逃げ

    道を塞ぐ為だ。 

    藤堂の思惑通り、周囲の大人達は、雪也の言葉に耳を貸さず、一方的に決

    められてしまった。

    結局のところ、親を亡くした孤児の扱いに、皆困っていたのだろう。

    藤堂という、厄介者の受け入れ先が決まって、大人達は皆一安心、という

    感じだった。

    雪也の気持ちなど考慮せず、物事を決めていく大人達に、雪也は、いかに

    自分が子供で無力な存在かを思い知らされた。

    そうして連れて行かれた藤堂の邸は、門からも結構離れた場所に建って

    いた。古い大きな洋館だった。

    玄関前に止められた車から降りると、辺りはもう暗くなっていた。

    邸の中に入ると、五十代と思われる女性が出迎えてくれた。服装から

    すると、多分、家政婦さんだろう。

 「お帰りなさいませ」

 「うん、ただいま」

    脱いだコートを手渡しながら、藤堂が応える。

    受け取ったコートを丁寧に腕にかけると、雪也へ顔を向けた。

 「お帰りなさいませ」

 「えっ、……お世話になります」

    声をかけられるとは思っていなかった雪也は、びっくりして頭を下げた。

    すると家政婦(名前はとわ子さん)さんは、にっこりと微笑んでくれた。

    そして応接間へ案内され入ると、そこには、二人の女性が座っていた。

    年の頃は、四十代と二十代前半といったところか。

    藤堂の妻と娘だろうと察しがついた。

 「この子が葵  雪也だ。まぁ、面倒見てやってくれ。雪也、妻の荘子と娘の

    蒼子だ。挨拶しなさい」

    正直、お互いに挨拶をしたいとも、されたいとも思っていないのが、

    雰囲気で分かっていた。が、いつまでも黙っている訳にはいかないので、

    雪也は口を開いた。瞬間、

 「母親似なのね」

    はっきりとした拒絶の言葉ではないが、拒絶の意味が込められている事

    は、理解できた。

    それは、此処での生活が雪也にとって、苦痛なものでしかない事を

    悟った。 三月の初めの頃の事だった。

    そして、今に至るまでとなった。