母の死~2

     
  『雪也、君は私の子だ』     
  
  「……は?」

     突然、予期せぬ言葉を投げかけられ、雪也は一瞬固まった。

     それもその筈。母から聞いた話では、父親は、自分がまだお腹の中にいる

     時に、事故死したと聞いていたからだ。

  「あの、何かの間違いではありませんか? 俺の父親は雪兎という」

  「君のお母さん…雪子は、私の愛人だった」

     雪也の言葉を遮って、藤堂は言い放ち、続けた。

     しかも、さっきまでの紳士然とした姿はなく、明らかに見下していた。

  「雪子とは、私の会社に入社して来て出会った。その頃のあの子は、とても

     美しく、華奢で儚げな雰囲気があった。だが、その見た目とは裏腹に、

     野心の強い女だったよ。彼女は君を身篭った途端、本性を現した。だから  

     数年は困らないだけの金額を払って別れたが、どうやら使い切ったよう

     だな」

     藤堂は、部屋を見回しながら、呆れたように言った。

     そして、視線だけ雪也へ向けると、続けた。

  「万が一という事もある。君には悪いが、調べさせて貰った結果、間違い

     なく私の子と証明された。だから愛人の子であろうと引取る、今度の」

  「お断りします!」

     今度は雪也が、藤堂の言葉を遮る。

  「何⁉」

  「俺の父親は、死んだ父だけだし、母さんは断じてそんな人じゃない! 俺

     の大切な人を悪く言うような人に、引き取って貰おうとは思わない! 
     
     施設に入った方がマシだ! 帰れ‼」

     雪也の声が外まで聞こえていたのだろう。

     外にいた二人が、ドアを開け入ってきた。

  「社長」

  「大丈夫だ。また来るから」

     前半は連れの二人に、後半は雪也に向けて言うと、玄関へと歩き出した。

  「もう来るな‼」

     ドアを開けて、外へ出て行く藤堂の背に投げつけた言葉。

     ドアが閉まり、遠ざかる足音を聞きながら、怒りが収まるのを待った。