雪也の攻防戦~3

     雪也が相馬のマンションへ引っ越して二、三日経った頃、相馬から新品の

    スマホを渡された。

 「雪ちゃん、コレ持ってて」

 「携帯…ですか」

 「そう、雪ちゃん持ってなかったよね。今時の小学生だって、持ち歩いてる

    っていうのに」

 「すみません。今迄、必要無かったので…」

 「まぁ、中学に上がると、学校から連絡が来る事なんてほぼ無いけど、どう

    してたの⁉ 友達からのメールとか…」

 「母が携帯…ガラケーですけど、持っていたので、学校からの連絡はそっち

    にいってたと思います。月也と薫も持ってはいますが、休み時間でも弄っ

    ているところ見たことがありませんでした。まぁ、学校では基本、使用禁

    止なんですけど、何人かは先生にバレないよう使ってましたね」

    相馬の問いに、雪也は携帯を物珍しげに眺めたり、裏返したりしながら答

    えた。

 「…そうなんだ」

 「あ、でも、…多分月也は、俺に気を遣っていたと思います。アイツああ見

    えて気遣い屋なので」

 「ふ~ん」

    雪也から見た月也の評価を聞いて、相馬の顔が曇る。

    相馬の声のトーンが明らかに違う、不機嫌そうな返事。雪也もそれを感じ

    取って顔を上げ相馬を見た。

    拗ねている⁉ しかし、先程の会話で、相馬の機嫌を悪くする要素があった

    だろうか⁉ が、ある事に気がついた。

 「相馬さん」

 「…何⁉」

 「えっと…、携帯を持たせてくれて、ありがとうございます」

    まだお礼を言ってなかった。だがこれも的外れだったのか、相馬はガクッ

    とうなだれて『ドウイタシマシテ』(棒読み)と言っただけだった。

    まぁ、お礼や感謝の言葉、などの見返りを求める相馬ではないのだが、き

    っちりしておきたいのが雪也だ。そして、できればこの空気を変えたい。

    なので、聞いてみた。

 「あの、それで、コレおいくら万円ですか? あと、月々の料金とか…」

    今迄携帯を持ってなかったとはいえ、周りの影響で、本体価格や使用料と

    いった知識はあった。

 「そんな事、雪ちゃんは気にしなくていいから」

 「でも…」

 「…でも、気になる⁉」

 「…はい」

 「雪ちゃんは真面目だなぁ。いい事だけど、この前も言ったよね⁉ 大人は最

    大限利用しろって…」

 「そうなんですけど…」

 「でも、まぁ、そうだな。雪ちゃんがどうしてもって言うなら…」

    一見優しそうな笑みの相馬。だが、目だけは異様な光を帯びている。

    あ、これ、やばいヤツだ!

 「今晩から毎日、雪ちゃん僕と添い寝するって事で♡…」

 「ありがたく、タダで使わせて頂きます!あと、“添い寝” が迷子になってい

    ますよ!おやすみなさい!!」

    相馬の言葉を、途中でぶった斬ってそう言うと、雪也は自室へと駆け込ん

    で、鍵をかけた。

 「雪也君、対相馬スキルを着実に上げているな」

    ここまでの二人の会話を、黙って聞いていた涼介は、相馬の肩にぽんっと

    右手を置いた。